起立性調節障害という病気の知名度が上がるにつれ、もしかしてうちの子も起立性調節障害ではないか?と疑う保護者も多くなっているはずです。
正確な診断はもちろん病院で行いますが、この記事では起立性調節障害の診断をどんな検査で行うのか、診察の過程をまとめました。
掲載しているセルフチェックで起立性調節障害かどうかのおおよその判別は出来ますが、正確な診断が欲しい方は起立試験を受けられる専門の医療機関を必ず受診してください。
起立性調節障害の診断方法・検査方法
起立性調節障害の診断は
- 身体症状のチェックと問診
- 起立試験(血圧、心拍数の変化を見る)
- 心身症のチェック・問診
この3つの方法でアプローチします。最初の身体症状のチェックと問診で、他の疾患ではなく本当に起立性調節障害かどうか?を確認し、その後に起立試験です。
起立試験は10分間横になった状態から立ち上がったときの血圧や心拍数の変化を見る試験のことで、これで起立性調節障害のサブタイプを判別し、その重症度も診断します。
最後に、起立性調節障害と精神的なストレスの関与をチェックして、治療方針を決定という流れです。
起立性調節障害の身体症状のチェック、問診
最初は鑑別といって、起立性調節障害以外の疾患がないかを含めて問診を行います。血液検査、心電図、レントゲンなど子どもが訴える症状を聞きながら検査を行います。
起立性調節障害の可能性が疑われる場合は、以下の身体的症状項目にどの程度当てはまるかをチェックします。
OD(起立性調節障害)身体症状項目
- 立ちくらみ、あるいはめまいを起こしやすい
- 立っていると気持ちが悪くなる、ひどくなると倒れる
- 入浴時あるいは嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる
- 少し動くと動悸あるいは息切れがする
- 朝中々起きられず午前中調子が悪い
- 顔色が青白い
- 食欲不振
- 臍疝痛(※さいせんつう、へそ周辺の痛み)をときどき訴える
- 倦怠あるいは疲れやすい
- 頭痛
- 乗り物に酔いやすい
「改訂 起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応
」P72より引用
問診の際は医師の判断で親に離席してもらうことがあります。起立性調節障害で診察に来る親子は既に親子関係に溝が出来ていることも考慮し、子供が親の目を気にせずに自分の症状を話せる状況を作るためです。
また、子供は自分の体の症状を親に話さないため、親が勝手にセルフチェックをしても正確さに欠けます。実際に子供がどんな症状をどの程度自覚しているか、子供にしか分かりません。
起立性調節障害以外の疾患がないかをチェックする
血液検査、心電図、レントゲン、検尿などの検査結果を見ながら、起立性調節障害以外の疾患が潜んでいないかを確認します。鉄欠乏性貧血、うつ病など起立性調節障害と似た症状がある疾患との判別を行います。
ここの判別が正確に出来なければ、治療の効果も出ないどころか、逆効果の薬を飲まされるケースもあるので要注意です。
新起立試験で起立性調節障害のサブタイプと重症度を診断
他の疾患の可能性が否定できれば起立性調節障害の可能性が高いということで、起立試験を行います。起立試験は横になった状態から起立した時に血圧や心拍数がどの程度変化するかを見るのが目的です。
ベッドや診察台の上に10分ほど安静に横になり、血圧計や心電図をセットしておきます。10分経過後にその場に起立し、心拍数、血圧などを起立1分後~10分後に細かく測定をします。この起立試験は症状が強い午前中に、専門家が立会いのもとで行うのが一般的です。
重症患者だと検査の最中にその場で失神することがあります。知識がない一般家庭では安易に起立試験をしないよう、注意してください。
この起立試験の結果をもとに、これから説明する起立性調節障害の4つのサブタイプのうちどれに該当し、どの程度の症状の重さ(軽症、中症、重症)かを診断します。
起立性調節障害のサブタイプ1:起立直後低血圧
起立直後に血圧が大幅に低下し、血圧の回復までに25秒以上または20秒以上でも血圧低下が安静時の60%以上に該当する場合、この規律直後低血圧に分類されます。
収縮期血圧の数値なども参考にしながら、軽症~重症を判別します。主な症状は立ちくらみ、めまい、全身の倦怠感、朝起き不良、入眠困難です。特に起立直後、起床時や入浴後、高温下で起きやすいのが特徴です。
4つのサブタイプのうち、最もメジャーで該当者が多いのがこの規律直後低血圧です。
起立性調節障害のサブタイプ2:体位性頻脈症候群
起立中は血圧は低下しませんが、心拍数が激しく増加します。正確には、起立3分後のシンク数が115/分以上、または心拍数増加が35/分以上です。
症状は全身倦怠感、頭痛、ふらつきなど。
起立性調節障害のサブタイプ3:血管迷走神経性失神
以前は確か「神経性調節性失神」という名前だった気がしますが、名称が色々あるのかな。このサブタイプは起立中に氏試飲したり意識低下、消失を伴います。
起立中に突然血圧が低下するのが元で、冷や汗、徐脈を伴うこともあり、けいれん発作も起こします。
起立性調節障害のサブタイプ4:蔓延性起立性低血圧
比較的まれと言われるタイプです。
起立後3~4分後に20mmHg以上の収縮期血圧の低下、または15%以上の低下を生じ、冷や汗、気分不良、動悸などの症状が出ます。
起立試験の数値で重症度を診断する
それぞれのサブタイプ別に、起立試験の数値をもとに重症度を決定します。さきほど、起立試験も午前中に行うと書きましたが、これは症状が強い状態での数値を測るためです。
症状が軽快した午後に起立試験を行うと正常な検査結果が出てしまい、重症度や正確なサブタイプの診断が出来ません。午前だと異常が出ていても、午後になると数値に出なくなるからです。
起立性調節障害は怠けと誤解されがちですが、病院ではこの午前と午後の客観的な数値の違いを保護者に見せながら、子供は決して怠けているのではなく病気なのだと説明することもあります。
起立性調節障害の心身症のチェック
次に、心理的なストレスが起立性調節障害に関わっているのかどうかをチェックします。起立性調節障害はそもそも自律神経の異常が根本的な原因で、心理的なストレスで病状が激しく変化することが既に分かっています。
自律神経は精神的なストレスによって働きに異常が出やすいため、診断の過程で特定のストレス因子がないかを確認するということ。
起立性調節障害になる子供は人間関係でNOを言えず過剰に適応しがちで、空気を読みすぎる、他人の顔色を伺う、自分の意見を押し殺す傾向が強いなど精神的なストレスを溜め込みやすので、いじめや人間関係のトラブルがないかを確認します。
その際のチェックリストがこちら。
「心身症としてのOD」診断チェックリスト
- 学校を休むと症状が軽減する
- 身体書状が再発・再燃を繰り返す
- 気にかかっていることを言われたりすると症状が増悪する
- 1日のうちでも身体症状の程度が変化する
- 身体的訴えが2つ以上にわたる
- 日によって身体症状が次から次へと変化する
以上のうち4項目が時々(週1~2回)以上みられる場合、心理社会的因子の関与ありと判定し「心身症としてのOD(起立性調節障害)」と診断する。
「改訂 起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応
」P80より
最初の診断では、子どもと主治医の信頼関係も出来上がっていません。初診では特定のストレス因子があるかどうかのみ確認に留め、詳しい内容は次回の診察時に聞くというやり方を取ることもあります。
起立性調節障害の診断が終われば治療方針を決定する
起立性調節障害であることが確認でき、そのサブタイプと重症度、心理的ストレス因子の有無が判別できれば、その結果を元に治療方針を決定します。
起立性調節障害の医療治療は、小児起立性調節障害診断・治療ガイドラインをもとにしており、診断結果を参考に6つの治療方法の中から組み合わせて決定します。
具体的な治療方法の決定の仕方はこちらの図の通り。(クリックで拡大します)
それぞれの具体的な治療方法のについては「病院で実施される起立性調節障害の治療方法」で取り上げています。診断内容に合わせて、この6つの治療方法の中から適切なものを組み合わせます。
この図が掲載されている書籍「改訂 起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応」でもかなり詳細に記述していますので、起立性調節障害の知識を増やしたいという方は是非手にとってみてください。
まとめ
セルフチェックだけでは起立性調節障害の可能性があるかどうかの判別はできても、具体的なサブタイプの判別、重症度の診断はやはり起立試験をしないとわかりません。
起立性調節障害の診断や起立試験は痛みの伴う試験は一切ありませんし、専門家が立ち会いのもとで安静に行いますので、うちの子が起立性調節障害ではないか?と疑いがある場合は、早めに小児科のある病院で診察を受けることをおすすめします。