全国の病院で実施されている起立性調節障害の治療方法について紹介します。起立性調節障害の治療は日本小児心身医学会が発表した「小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン」に基づき、全国の小児科にて行われています。
このガイドラインは病気の特徴、診断・治療方法をまとめたもので、このガイドラインが発表されて以降、全国で起立性調節障害の診断手順が統一化されるようになりました。
そのガイドラインが2015年に改訂されましたので、その改定内容を踏まえた起立性調節障害の治療方法についてご紹介します。
病院での起立性調節障害の治療方法・概要
起立性調節障害の治療方法は以下、全部で6種類あります。
- 疫病教育
- 非薬物治療
- 学校への指導や連携
- 薬物療法
- 環境調整
- 心理療法
起立性調節障害と診断された人すべてがこの6種類の治療を受けるわけではありません。
症状の重さ(軽症、中症、重症)、心理的社会関与の有無(いじめや人間関係のトラブルなど、特定できる心理的ストレスの有無)を先に判別し、その子供の状況に合わせて以下の中から治療方法を組み合わせます。
1と2は治療の基本となる土台部分で、ここは起立性調節障害と診断された人全てに行う治療です。3~6は先程の症状の重さ、心理的社会要素の有無によって組み合わせを決める部分です。
この図で見ると分かりやすいです。

「改訂 起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応」のP83にある図を引用。書籍の出典は”日本小児心身医学会「小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン」『小児心身医学会ガイドライン集 改訂第2版』南江堂、39、2015”と明記あり。
一度病院で診察を受けた人なら自分たちが大体どの辺に該当するかも見当がつきやすいかと思いますが、病院ではこの図を参考に治療方針が決定されます。
また、疫病教育、環境調整という言葉の意味も分かりにくいと思うので、後ほど各治療方法の内容をもう少し詳しく説明していきます。
起立性調節障害の治療は小学生、中学生、高校生でも変わらない
また、起立性調節障害の治療はどの年代でも同じです。もし変わるところがあるとすれば、薬の分量ぐらいでしょうか。
あとは出席、欠席の状況を考慮すると留年などが入ってくる高校生と、義務教育下でも学校との連携の仕方が変わるかもしれません。
起立性調節障害の治療期間も人それぞれ
起立性調節障害の治療方法は症状の重さ(軽症、中症、重症)と心理社会的関与の有無で治療内容が変わってきますから、当然、治療期間も変わってきます。
軽症で心理社会的関与がなけけれ治療期間も短く済みますが、重症で心理社会的関与が強い場合は治療期間も長く、回復までに時間がかかります。不登校を併発している場合は特にそうですね。
もともと起立性調節障害は思春期特有の病気ですから、(軽症の場合を除き)病院で治療を受けてもすぐには治ることは稀です。
起立性調節障害の治療:疫病教育
全ての起立性調節障害の基本となるのがこの疫病教育です。疫病教育とは「起立性調節障害が病気であり、怠けではありません」ということを理解するのが目的の治療です。
また、「起立性調節障害は心理的なストレスが深く関係している病気だけど、身体の異常があって辛い症状が出ているので、まずは身体的な症状に対して治療を行います」という治療方針の理解、「起立性調節障害という病気を治すには時間がかかる」という点この段階で理解してもらいます。
しかもこれは子供本人に対してだけでなく、保護者はもちろんのこと、家族、学校関係者など子供に関わるすべての人に対して行われる、というのがポイントです。
起立性調節障害は親の無理解が最も怖い
起立性調節障害はどうしても怠けと誤解されがちで、親は子供のサボり、怠け、夜更かしが原因と考えがち。
でも子供は子供で辛い症状を抱え病気ではないか?身体がしんどいのはなぜなのか?と不安がっており、親子間での認識に大きなズレがありますから、そのズレをここで徹底的に修正します。
保護者の中には起立性調節障害という病気をどうしても理解できず、根性や精神的な問題と片付けたがる人がいます。
厳しい環境が当たり前だった父親、根性論が好きな人にも多く、そういう人には病院で起立試験の結果を見せ、数値面でどのような異常が出ているかを医師がハッキリ説明する、という措置も取られます。
起立性調節障害は親の無理解であっという間に症状が悪化していくので、ここで徹底的に誤解を解くのです。
起立性調節障害の非薬物療法
非薬物療法とは、薬を使わずに生活習慣の改善などで行う治療のこと。
疫病教育と並んで、起立性調節障害の治療の最重要かつ基本となる治療であり、最も重要な治療です。
例えば食事、運動、朝の起こし方、夜の過ごし方、水分摂取、塩分の摂取、ストレッチ、立ちくらみが出ない身体の起こし方、朝の起こし方の工夫など、日常生活で工夫できるたくさんのことです。
軽症の子供はこの非薬物療法だけで一気に軽快することもあるし、重症化を防いだり、再発の予防にも役立ちますから、積極的に取り入れてください。特に水分摂取!
非薬物療法の詳しい内容(詳細は「起立性調節障害の治し方【自分で出来る生活習慣の改善・工夫】」にて)は多岐に渡ります。
光学療法という朝に強い光を浴びることで体内時計や自律神経を整える治療法があるのですが、自宅で簡単に取り入れられるのでオススメです。
個人的にも日々意識して朝に光を浴びるようにしているのですが、この習慣付けを行って以降は特に朝に光を浴びる重要性を実感していています。
原始的ですが最も確実な効果がでる習慣だと思いますね。
起立性調節障害の治療:学校への指導や連携
次に、学校との連携です。担任をはじめ、学校側に起立性調節障害について正しい理解を得て対応してもらうのがこの治療の目的です。
教師の中には起立性調節障害という病気に対して正しい知識がなく、どのように対応すべきかがわからない人もいます。
体育教師などの中には、「気持ちがたるんでいる」、「気持ちの問題」など根拠に乏しい根性教育で子供を叱咤するケースが有り、それが原因で起立性調節障害を悪化させるケースは散見されます。
「起立性調節障害は身体疾患であり、正しい専門的な知識をもとに適切な対応が必要である」ということを学校関係者に理解してもらい、起立時の失神や水分摂取など症状に合わせた適切に対応を理解してもらう必要があります。
欠席時の連絡方法の変更、生徒本人に対する接し方、症状が出た場合の対処法、症状が出ないための対応もあれば、クラスメートからの批判、疑いの目をどのように対応するのかまで含みます。
起立性調節障害の薬物療法
薬を使った治療法です。起立性調節障害の患者には、昇圧剤と呼ばれる血圧を上げる薬を処方するのが一般的です。
起立性調節障害は薬を飲むだけで完治することは稀です。仮に薬だけで治ったとしても軽症の人で、中症以上の人は薬物療法以外の治療方法を積極的に取り入れることが重要です。
最近では、薬の副作用や子供の思春期で成長期の身体への負担を心配し、サプリを飲んでいる人も増えていますが、正直実態のない怪しいものが多く、効果のほどは疑問が残ります。
サプリは入っている成分によって逆効果になる可能性のものもあるので、きちんとした知識をつけ成分に十分、注意して選ぶようにしてください。
起立性調節障害の治療:環境調整
子供本人に特定の心理的ストレスや学校などの社会生活に復帰するために必要な調整を行います。
いじめ、人間関係トラブルはもちろん、不登校からの再登校への不安、学習の遅れ、生活リズムの矯正、自尊心の低下など、内容は実に様々です。
特定の原因がある場合でも、子供が親に言わないケースもありますし、本当に心当たりがない場合もありますから、診察段階で特定のストレス因子がないかだけでも把握しておきます。
親子間で認識がズレないよう調整し、必要であれば学校側にも協力を要請します。理解が進まない学校の先生、保護者、クラスメートなどとの調整が特に多いですね。
ここまでの治療に全く改善反応がない、難治性の起立性調節障害と判断された場合は、本人の意志も踏まえながら入院治療を行うこともあります。
起立性調節障害の心理療法
心理カウンセリングや認知行動療法のことです。起立性調節障害の治療ではあまり取り入れられません。大抵の場合は、環境調整までの治療方法だけで完結することが大半です。
よほどの重症患者で精神的にもふさぎ込んでいる場合で、なおかつ本人が希望する場合に用いられます。
起立性調節障害のその他の治療法:漢方薬
ここまでの6種類が起立性調節障害の治療の基本概要となるのですが、ガイドラインに掲載されていない漢方を使った治療法も存在します。
起立性調節障害の根本原因に対して治療を行うことができるのが漢方治療の特徴です。
滋養強壮剤をはじめ、身体が本来持っている基本的な機能を取り戻すというやり方も取られますし、自然成分を使った治療なので身体への負担も小さいです。
保険が効かないので治療費用が高額になるのがデメリットですが、病院での治療に不満をお持ちの方はお近くの漢方薬局に相談してみるのも良いと思います。
まとめ
以上が起立性調節障害の治療の概要です。
子供の起立性調節障害をなんとかしようと焦る気持ちは分かりますが、足元をしっかり見据えて、基本に忠実に、焦らず、目の前のことからじっくり取り組むのが治療のコツではないかと思います。
治療の基本は非投薬治療(生活面での工夫)なので、まずはしっかり知識をつけて生活の中に取り入れてみてください。